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短編小説「NO_TITTLE」

 「自殺?」

 「ああ、就活生が自殺したんだって」

 俺は同僚の山岸がなぜ、そんなニュースを気にしていたのか不思議に感じた。

 「就活生の自殺って前にもあったよな」

 「それがさ、今回は自殺者の遺書が残されているらしいんだよ」

 「遺書?」

 俺は資産を持たない若造が遺書なんて残してどうなるんだと思った。

 「その遺書は自殺者の友人の数人にあらかじめ渡されていたらしくて、まだ公開されていないんだよ」

 「それ、どうゆうこと?」

 俺は理解できずに、山岸にふたたび聞いた。

 「ある意味、そいつはまだ生きてるってことだろうな」

 「なんだよそれ、わけわからん」

 山岸はにわかにしかこの事件を理解していないんじゃないかな。

俺にも関係ないことだから、それほど気にはしないまま、デスクを離れて午前の会議へ向かった。

 

 翌日、俺はめずらいしく出勤前にテレビをつけた。

 「自殺した被害者、羽田一語さんの友人が二週間前に渡された遺書の内容を公開してくれました」

 公開された遺書の内容をキャスターが声色を変えて淡々と読み上げる。

 

 ―――――――――――――――――― 

 

 自分が本当に入社を希望した会社で面接をしてくれたのは7社の中で2社だけでした。

 その他に、キャリアセンターの人から紹介された企業を27社、全てダメだした。

 理由を聞いても採用担当の人は教えてくれませんでした。

 

 ――――――――――――――――――

 

 どうやら自分は社会に必要のない人間のようです。

 ちょっと疲れてしまいました。

 仲の良い友人には伝えてあります。

 

 じゃあ、ちょっと先に行ってます。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 遺書ではあるが、どこかへ旅立つ前向きなメッセージのようにも思える

 この文章を所持していた友人は自殺者が在籍していた大学の同級生らしく、顔にはモザイク、声には加工がかかっていた。

自殺者がどんな人物だったか軽くインタビューして、すぐにニュースは他の話題に切り替わった。

 なんとも、後味の悪い、違和感はだらけの報道だった。

 けれど、俺は出勤の電車の中でずっとそのことを考えていて、早く山岸に話したかった。

 

 俺が会社の前で立ち止まっていると、 山岸が急ぎ足で俺の前を通った。

 「おう、おはよう」

 山岸はそのままのスピードで、会社入口の自動ドアに向かう。

 「おい、ちょっと待てよ」

 俺はすぐに山岸を追いかけた。

 「おい、昨日言ってた就活生の自殺の件、今朝のニュースでやってたぞ。遺書が公開されてて」

 「俺も見たよ。なんかサバサバしてた内容だったな。しかしなんで就職が決まらないだけで自殺なんてするんたろうな~」

 その言葉に同意できなかった。

 

 俺だって、三年前に会社員になったばかりだ。当時、まともに授業も聞いてなかった俺が社会に出て働くなんて全然リアルじゃなかった。

 なんで入社できたのかも俺にはわからない。

 運よく内定が決まった時は、優越感にひたったけど、いざ入社すると、本当にこれでよかったのか、自問自答を繰り返す毎日であっという間に3年過ぎてしまった。

 「あの遺書もウソっぽいよな~」

 「そうなのか?」

 最初から疑っている山岸の発言に俺はおどろいた。

 「推測だけどな。大学生がやりそうなこと」

 

  社会に必要のない人間。

 

  かつて自分もそう思っていた。

  学生という社会に守られた立場から会社員はそう見えるのかもしれない。

 

  就職活動をする学生は、面接をされる側。

 

  人事は面接をする側。

 

  決して平等ではない。

  えらくもない会社員の一人が面接官という恐そうな仮面をつけて学生たちを圧迫する。

 

  就活生から見れば、社会人というだけで、自分たちとははるかに遠い存在。

  彼らは、企業説明会、就職セミナーで自動的にそのことを脳裏に埋め込まれる。

  その不確かな判断基準を、絶対に正しいものと信じて、疑わず面接に臨む。

 

全ての面接官がこの限りではないが、人は自分のより経験の少ない人を下に見る。

年齢も下。

社会経験も下。

気が大きくなった面接官は無責任なアドバイスをはじめる。

自分の経験のみで正しさを結論づけて、語りだす。

そして、知らないことを話されて、困惑して委縮した就活生にマイナスポイントをつける。

  

 俺が思う面接というものはそういうものだった。

 俺もかつては会社や、そこで働く会社員というのは、完璧なシステムの元で仕事する正しい人間なんだと考えていた。

 けれど、実際に会社員になるとその考えは覆されて、失望した。

 

 昼休みに外に食べに行くのをやめて、どうしても今朝のニュースについて話したかった。

 「なあ、山岸はさ何でこの会社に入ったの?」 

 俺は一階の売店で買ったパンをかじりながら聞いた。

 「内定もらった中でも月給が一番高かったからな。でも俺、就職したと同時に一人暮らしをはじめたから、実家の時と同じ感覚で浪費してたら、最初は金が足りなくなったよ」

 「今はどうなんだ?」

 「ちょっと親に助けてもらったけど、今はまともに暮らしてるよ。貯金もしっかりしてるしね」

 「成長したじゃん」

 山岸と話をしているといつもこんな調子になる。

 でも、間違いなく楽しい。

 「お前はどうなんだよ」

 「えっ、俺?」

 「お前は何でこの会社に入ったんだよ?」

 さっきと同じ質問を俺にもしてきた。

 「俺はここにしか内定もらえなかったんだよ」

 「お前結構ポンコツなんだな」

 「 そうじゃないよ。たまたま入れただけだよ」

 「就活って、ほとんど運だもんな」

 「そうだな」

 山岸は何も考えていないように見えて、重要なことはしっかりとらえている。

 

   俺達の時もそうだった。

 学校で教えてもらったことを完璧にこなしても答えをくれない。

襲ってくる恐怖を前向きにとらえていても、「そうはいかないよ」と、鋭利な言葉で精神を揺るがしてくる。

 

 採用する側も一人の人間なので、完全ではないことはわかってる。

 なのに、アドバイスをする時は偉そうに語りだす。

 学生と面接官では歩んできた人生が異なるのに。

 

 ただ、早く生まれただけ、それだけの理由で彼らを否定する理由なんてどこにもない。

 

 人の能力を見抜く能力なんて、努力じゃ身につかない。

 履歴書という紙切れ一枚で、人を判断することはできない。

 

 目まぐるしく変化していく世の中を生きていくのは若い世代なのに、それを受け入れない先人たちが多すぎる。

 

 会社と学校は違う。

 そのことに気がつくのにも時間がかかる。そこから自発的に行動を起こし、問題をくくり抜けて、結果を出す。

 学校の勉強や体育みたいに、いい点数、いい評価を取ればいいのではない。

 答えのない問題を解くのが、会社員だということ。

 

 どんなに厳しい会社でも、どんなに怠慢な社員でも長く会社に勤めていれば、だいたいこういうことを理解してくる。

 しかし、かつて学生だった会社員はこのことを学生たちに伝えることをしない。

 自分の功績や、手の内を話したくないのか、理由はさっぱりわからない。

 

 「山岸、今の就活生と俺らの時って何が違うのかな?」

 「変わんないだろ。たった三年だぜ」

 山岸の返答は冷めていた。

 「でも、これからは個人の時代って言われてるだろ」 

 「お前な、個人の時代なんてとっくに終わってるぞ」

 「えっ?」

 山岸の言ってることは冗談には聞こえなかった。

 「個人の時代が終わってるって?」

 「誰もが情報を発信できるけど、その中で特別になれるのは、ほんの一握りだけだ。社会の大半はそれを認めない。会社には必ず従順な労働者が一定数必要だからな。」

 山岸の声には本気の熱がこもっていた。

 認識しなくてはいけないのは、そのような世の中に俺たち下端しているということ。

 社会の歯車の一員出る俺たちは疑問に思うことをそのままにして、何も買えようとしない。

 自分の会社での評価に響くのが怖くてリスクをおかしたくない。その恐怖心が若い世代を知識不足に陥れている。

 

 下の世代に伝えていくこと。

 それが我々が年を取っていく責任ではないだろうか?

 

 絶対という答えは存在しない。 

 若いから・・・そんな理由で、未来がある若者をはねのけるのではなくて、寄り添うことが必要なのではないだろうか?

 

 「山岸、確かに変わってないけど、変えようとしなかった俺たちにも原因があるんじゃないか?」

 「なんだよ急に・・・」

山岸はちちょと困った顔をした。

 「やっぱりさ、就職できない学生がいてもいいけど、自殺するのはちょっとちがう気がするんだ」

 「お前が、そんなこと言ってどうするんだよ」

 俺の発言に山岸は少し困惑している。

 

 「でも、お前が会社の中で何かしたいっていうなら、俺は手を貸すよ」

 「ありがとう」

 俺は信頼できる同僚を持ってることを誇りに思う。

 「でさ、何か考えてるのか?」

 「いや、それが、まだ何も」

 「何だよ、それ」

 「お前の意見も聞きたいかな~って」

 山岸はあきれた顔をしてる。

 「日々いろんことにアンテナを張ってればアイディアなんてすぐ生まれるよ」

 「本当に頼りになるぜ。じゃあ俺がプレゼンするから」

 「本当に頼りになるぜ」

 俺と山岸の得意なことはちがう。信頼してるからこそ自分ができないことを依頼できる。

 それが自然に仕事につながる。

 

 完璧な人間なんていない。  

俺たちはみんな違う。だからこそみんなから学べるんだ。